「雑音。この十年をふり返るとき、頭に浮かんでくる最初のことばはそれである。雑音だらけだった。銃声と怒声、挑発的なことば、悲しみに沈んだ嘆きの声、爆発、デモ、山ほどの決まり文句、テロ現場からの特別番組、報復を求める声、救急車の金属的なかん高いサイレンと、その上空を舞うヘリコプターの震動。毎回の事件のあと狂ったように鳴り響く電話のベル。だがこの旋風のような騒々しさのなかに、台風の目のような静けさがある。耳には聞こえないが、わたしの身体の隅々にそれが感じられる。それは悪い知らせを聞いてから実感できるまでのあいだ、殴られてから実際に苦痛を覚えるまでの短いあいだに感じるような沈黙である」 イスラエルとパレスチナ。二つの民族が一つの大地に共存することはできないのだろうか。本書は、エルサレム在住の作家が、この十年余をつぶさに観察した現場報告を中心にしている。1993年のオスロ合意調印からラビン暗殺、第二次インティファーダ、シャロン復活、9・11、イラク戦争、ロードマップ、2003年12月まで。リアルかつ希望を失わない41の文章は、かの地で起こっている現実を目の当たりにさせてくれる。イスラエル内部から「パレスチナ問題」を見つめた本書を、たとえばサイードの著作と並行して読むと、より立体的な像が浮き上がってくるだろう。