人生にはたくさんの思い出がつまっています。 幸せだった時のこと。嬉しかったあの日の出来事。そして息さえできないと思うほどに辛かったこと。そうです、私たちひとりひとりには、その人でないと想像もつかない喜怒哀楽の一瞬一瞬があります。ですから、私たちは共に支え合い励まし合うことができるのではないでしょうか。「私のこのよろこびと苦しみ、あなたにもあるね……」と。 私はこの二十数年の間、ターミナル期におられます病気の方々の心と魂のケア、つまり「スピリチュアルケア」に協力させていただいております。そして、一方ではご家族などの大切な人を亡くされました遺族の方々のグリーフケア、つまり悲嘆の状態にある方々の近くで寄り添わせていただいております。 その経験から、多くの方々と共にたくさんの涙を流しました。そして今、思うのです。私たちすべての人々は、この世に生きている問、「おくり人」、つまり家族や親戚、友人を看取り、そして最後に、「おくられ人」として送っていただく時が必ず来ることを。 その「おくり人」である間、愛する家族や親しい友人を送った後の苦しみ、辛さは、それを経験したことのない人には想像さえできないことでしょう。 しかし、私たちは人生の中で少なからず大切なものを喪失した体験をもっているでしょう。このような経験と想像力を生かし、人生の中で最も辛いと言われている、大切な人をなくすという「悲嘆」について、ご一緒に考えてみたいと思います。 それは、いま、愛する家族や友人と共にいることの幸せに気づき、その喜びに感謝するためでもあると思うからです。 (「はじめに」より)