自然な祈りを知って親しんでもらいたい。 著者は神父である。しかし本書には、巻頭の聖書の引用とあとがきを除き、神という言葉も、イエス・キリストも出てこない。うつに苦しんでいるとき、独りぼっちのとき、進むべき道に迷ったとき等々、人生で遭遇するさまざまな場面で、こんなふうに祈ってみてはどうかという素朴な言葉が、詩のように美しく綴られている。 子が親を呼ぶように、この世の親ではなく、透明な天の父を頼って呼びかける、そんな祈りを知ってもらいたい。 そのキーワードが『甘える』という言葉。甘えるとは、「正直に、素直に」ということ。たとえば、"疲れ果てた人の祈り"は、「天の父よ/疲れ果ててしまいました/ごらんのとおり/何もすることができずにいます/仕事を続けることができません/忍耐する力もありません(中略)正直いって祈ることも苦痛です/しばらく休ませてください」 夫婦や子育て、親の介護についての悩み、仕事の問題、あるいは心身の不調など何かつらさを抱えて立ち止まるとき、本書の言葉はきっと静かに寄り添ってくれる。 日常の祈りも各種ある。なかでも秀逸なのは、簡潔で朗らかな「天の父よ/ぜんぶよろしく」100歳だったカトリック信徒の葬儀で、お孫さんが教えてくれたそうだ。「祖母がいつも『神様は全部わかっているから、長々祈らず、このひと言でいいの』と言っていた」と。 どれも温かく、優しい眼差しが感じられる77編。ただ読むだけでも心がほぐれ、やわらかい気持ちになってくる。目次を見て、気になるページから開いてみてもいいだろう。人生の折々に、胸に響く言葉と出合えるに違いない。