キリスト者の現実の生活における究極の事柄は「愛(アガペー)」である。パウロの『コリントの信徒への手紙1』の13章はそのテーマを最も象徴的に表現したものであり,文字通り〈愛の賛歌〉にほかならない。 本書はこの13章を徹底的に考察することにより,愛の終末論的意味とその根本構造を鮮やかに浮かび上がらせる。Iコリント書のなかにおける13章の位置づけをはじめ他の章との関係をも詳細に検討する。さらにアガペーに関する陳述の構造を分析することにより愛の本質的相貌を解明すると同時に,それがイエス・キリストの相貌に他ならないことを明らかにする。そこではイエス・キリストにおいて聖霊によって啓示された神の愛が語られている。 このテキストは重点的,総合的に考察されることが少なかったがヨハネ福音書注解を達成した著者が,本格的にイエス・キリストの愛を捉えた意欲的な作品である。